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1/12021(金)

『銀杏BOYZ 年末のスマホライブ 2020』ライブレポート

2020年12月26日(土)19:00より、銀杏BOYZが『銀杏BOYZ 年末のスマホライブ2020』を開催した。8月12日(水)に渋谷La.mamaで行った『銀杏BOYZ スマホライブ2020』以来、二度目の配信ライブとなる。なお、この12月26日(土)は、新型コロナウイルス禍がなければ、峯田の地元、山形のやまぎん県民ホールでワンマンを行うはずだった日程。
前回と同様、ライブを生中継するカメラはスマホで、チケット購入者にもスマホで視聴することを推奨し、PCでアクセスしても画面はスマホと同じ縦型になっている、というフォーマットで配信された。ただし、前回はライブを中継するスマホは2台だったが、今回は6台くらいに増えていた。

19:16、道端にしゃがんでカメラマンに話しかける峯田和伸が、画面に映し出される。
「今日、中止になんなくてよかったね」という言葉から、ワールドカップやハロウィンの時に、渋谷のスクランブル交差点で騒いでいる人たちを観ると「バカバカしいな」と思っていた──という話を始める峯田。
今年は世の中がこんなことになって、街に出るのも難しくなって、「ざまあみろ、よかった」と自分は思うのかと思ったら、思わない。世の中がこんな状況になって気持ちが晴れるかといったら、まったく晴れない。それは世界と俺が戦って勝ったわけじゃないからだ。じゃあ俺はどうやって勝ったらいいのか。楽器を持って歌うしかない、こういう状況だけど、ライブをやって、なんとかそれで世界とつながるしかない──と、3分ほどしゃべる。

そして、「もうすぐ2020年は終わりますけど、こんなにガラガラの街ですけど、やろうと思います。ほんとはお客さんの前で、ワ―ッとやりたいけど。世界に勝つとか負けるとかわかんないけど、歌いたいと思います。観ててください」と立ち上がると、ペットボトルの水をひとくち飲んで頭にかけ、ライブハウスに入っていく。その入口の映像で、場所がクラブチッタ川崎であることがわかる。
受付で手を消毒し、メンバーが楽器を鳴らしているチッタのフロアに入り、「2020年12月26日、銀杏BOYZ、歌います!」とスタンドからマイクをはずし、「ヴアーッ!! ヴアーッ!! ヴアーッ!! ヴアーッ!! ヴアーッ!!」と絶叫すると、それに合わせてバンド・サウンドが爆音になり、1曲目「DO YOU LIKE ME」になだれ込み、『銀杏BOYZ 年末のスマホライブ2020』という文字が、画面いっぱいに躍る──というオープニングだった。

ニュー・アルバム『ねえみんな大好きだよ』の曲順どおり、その爆音は「SKOOL PILL」、そして「大人全滅」につながっていく。
おそらく、スマホのマイクで拾っているため、そして、そもそも音がでかすぎるため、2本のギターもベースもドラムも、音、割れっぱなし。まるで1990年代まで西新宿のブート屋街で売っていた海外のハードコア・バンドのライブVHSのようだ。
峯田、「大人全滅」を歌い終えて、床に寝転がって目を閉じるが、すぐ立ち上がる。

「ぼくが、ぼくが、ぼくが生きるまで、きみは、死なないで、きみは、死なないで」──と、2019年12月に亡くなったオナニーマシーンのイノマーを見舞った時、寄せ書きに書いた言葉が原案になった歌詞の一節を、朗読のように言葉にしてから、「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」へ。
これを書けたことでニュー・アルバムの完成が見えた、という、叙情性に満ちた名曲で、ライブは早くも一度目のピークを迎える。タンバリンをヒジにかけた右腕でつかんだマイクに、声を注ぎこむように歌う峯田。
曲を終え、「銀杏BOYZです、どうもありがとう」と言った瞬間、道行くさまざまな男性たちを捕まえて作った「ボーイズ・オン・ザ・ラン」(2009年)のMVに切り替わる。換気のための休憩時間を、今回はそういう演出にしたようだ。

12分弱に及ぶMVが終わると、画面がチッタに戻り、アコースティック・ギターを抱えた峯田が、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」のMVのことを説明する。彼の顔を照らす照明が、さっきまでの赤や青が入り混じった色ではなく、自然なトーンに変わっている。しゃべっている表情も、さきほどよりもやわらかい。
自分の至近距離に人の顔があって、そういう人たちが吐く息で、臭くて、酸素も足りなくて──自分にとってのライブはそういうものである。でも今は、それはできない、その問題に今世界中の人々が直面している。お客さんを少なくして制限を決めてライブをやるミュージシャンもいる、でも自分にとっては、お客さんがギュウギュウで湯気が立ち上っている情景こそがライブである。
世の中がもとどおりになる、とは今はあまり思えない。だから今、ニュー・アルバムの曲を演奏できる場所がない。本当はお客さんの声で自分の歌声がきこえなくなるようなライブをやりたい、でもいつになるかわからないので、今はこういう方法で、歌いますね──。
というMCを経て、峯田、アコースティック・ギターを弾きながら「骨」を歌い始める。ワンコーラス歌い終えたところで、岡山健二のドラムに導かれて軽やかにバンドの音が加わり、やがてそれぞれのコーラスも足されていく。
演奏しながら笑顔を見せるメンバーもいて、はりつめっぱなしだったステージの空気が、この曲で、温かく変わったように見えた。

「テレビでも、ラジオでも、インターネットでも、SNSでも満たされない、そんな病める若者は、全員、ロック・バンドをやればいいと思います」「許せない世の中に対して、それを言葉にして、ただ大きい声で、目の前にいるきみに歌う、ただそれだけで、僕はこの世界と一体になれる、僕はこの世界とつながれる、スピードを加速して、エレキ・ギターが鳴り、僕のこのイズムが、メロディになって」
というMCからの「エンジェルベイビー」で、バンド・サウンドが再び爆音になり、スマホからの音が割れる。山本幹宗と加藤綾太、ふたりのギターがそれぞれ好き勝手に爆発しながら、共に曲を形作っていくさまが、すさまじい。
峯田、歌いながら、観ている人たちに近づこうとするように、何度もスマホに顔をギリギリまで近づける。
次は、メンバー全員によるかけ声で始まり峯田が美しいメロディを紡いでいく「恋は永遠」。峯田の背後の、ステージを覆うように下りた幕に、女性の横顔などの映像が映し出される。
峯田がアコギからリッケンバッカーに持ち替え、同名の映画の主題歌として使用された時よりも速く荒々しく演奏された「いちごの唄」(曲中にスマホのトラブルと思われるノイズが何度も交じった)を終えて、二度目の休憩。
歌い終えた峯田がマイクにすがりながら膝を落とすと、「新訳 銀河鉄道の夜」を女性が朗読する声で始まる「ぽあだむ」(2014年)のMVが、フル尺で流れる。

今日は川崎のクラブチッタってところでライブをやっている、さっき外にお客さんがいて、スタッフが「なんで知っているんですか?」と訊いたら、都内近郊のライブハウスをぐるぐる回って、ここを突き止めたそうだ──と、MCを始める峯田。
そして、毎年クリスマスイブは、渋谷La.mamaでオナニーマシーンと『童貞たちのクリスマスイブ』というイベントをやっていた、という話から、亡くなったイノマーのことに触れる。

「ひどい人だよね、毎年この先さ、クリスマスを迎えるたんびに、街が色めき立つと同時に、思い出すんだよね。何歳になっても思い出すんじゃないかな。楽しいはずのクリスマスがよ。(遠藤)ミチロウさんも、大好きな人とか、いなくなっちゃうんだよね。でも、肉体は消えても、家で(音楽を)聴いてたら、やっぱり会えるんだよね。思い出すんだよね。思い出すってことは、あるんだよね、自分の中に。だから、聴いててほしいなあと思って、イノマーさんにも、ミチロウさんにも。届くかなあと思って、歌ってます」

というMCから、ゲストのDr.kyOnを紹介し、彼のピアノと自身のアコースティック・ギターで「生きたい」へ。
2016年に書かれ、現体制の銀杏BOYZの出発のきっかけになった、12分以上にわたるこの曲を、前半は2人きりで、中盤からバンドも加わって完奏する。後半では峯田、マイクを両手で握ってひざまずき、祈るように歌う一幕もあった。

「あなたを殺して、僕もすぐ行くよ。そんなことを願ったふたりが、クルマの中で練炭を詰み、手をつなぎ、願ったあの思いが、この世への恨みとは別に、ひとつの星が瞬く。水色に輝いたあの星はシリウスで、すべてのことが、起こりますようにと、あなたの街で。あなたの肌の色が、何色だろうと、あなたの親が、どんな、どんな汚え親だろうと、あなたの仕事なんてどうだってよくて。あなたの家はどんなに貧しくても、あなたの友達がどんな犯罪を犯そうとも、すべてのことが起こりますようにと、GOD SAVE THE わーるど」

という、朗読のような言葉から始まった「GOD SAVE THE わーるど」では、バンドに打ち込みのバック・トラックが加わり、音がとても華やかに、とてもカラフルに、そして、その分、とてもせつなくなる。
「泣かないで仲直りしようね もう離れないって誓って」のところで、峯田、歌いながら、カメラ目線で右手の小指を立てて見せ、視聴者に指切りを求める。ステージ幕には、雪景色の映像が映し出されている。

「今年最後の土曜日の夜、長い時間、観ていただいて、どうもありがとうございました。銀杏BOYZ、『ねえみんな大好きだよ』、10月21日に発売されて、ようやく、ようやく全曲ライブでお披露目できて……作ったものをプレゼントして、喜んでいただけるっていう顔が、やっぱり見たいです。でも、なかなかそれがかなわず、来年、年をまたいだらすぐできっかっつったら、そういうわけでもなく。なかなか難しいですけど、でも、こうやって披露して、生まれた新曲たちは、成仏してくれていると思います。最後、残り1曲歌います。今日はほんと、どうもありがとうございました」

と、『ねえみんな大好きだよ』のラスト・チューン、「アレックス」へ。2コーラス目の「そんな日がくるって夢みていたんだ まぶしい未来にもう帰れない──」のブロックを、峯田が最初に弾き語りで歌ってから、バンドでの演奏になった。岡山健二がほぼツイン・ボーカルのように、峯田の歌にハモリをつけていく。
曲のアウトロで、峯田、加藤綾太のリード・ギターと呼応し合うように、「♪イェイェイェイェイェー」と、詞のない歌をしばし繰り返す。曲の終わりで、メンバーやスタッフ、視聴者へのお礼の言葉を、改めて口にし、本編が締められた。

楽屋の外で、タバコを吸いながら話す峯田たちの映像をはさんでから、アンコール。会場内に戻りながら始めた『M-1グランプリ』の話を、マイクの前でもしばし続け、「負けないようにしないとね。バンドマンもね」とアコギを抱え、「それでは、誰も頼んでないと思うけど、アンコールやります。無理矢理やります」。
Dr.kyOnを紹介し、「リハの時よりもちょっと速めで、うるさめで」と指示を出し、6人での「東京」が始まる。峯田の歌もメンバーの演奏も、曲が進めば進むほど、どんどんエモーショナルになっていく。スマホの縦長の狭い画面でも、回るミラーボールの光が、会場を包んでいることがわかる。
Dr.kyOnが去り、最後は、メンバー5人で「夢で逢えたら」。歌いながらなんかもう目がイッちゃってる峯田、前のめりなベース・ラインを奏でながら、その歌にハモリをのせる藤原寛。ギターソロ明けで、峯田、歌いながら自分を撮るスマホをつかみ、レンズを舐めてみせる。
曲が終わり、「大好きだよみなさん、大好きだ! ライブハウスでまた逢うべな、銀杏BOYZでした!」と叫んだ峯田は、スマホのカメラを左手でふさいで画面をオフにし、配信は終了した。

おそらく新型コロナウイルス禍であることも大きいのだろうが、今後の銀杏BOYZの活動予定は、一切発表されていない。
しかし、アンコール前の雑談で、峯田がメンバーに「今日が仕事納めじゃない、明後日はリハ。だけど、新曲、まだサビのメロディしかない」などと、メンバーたちに言っていたところを見ると、新しい曲を作るためにスタジオに入ろうとしていることが、うかがえた。
次のアクションを楽しみに待ちたい。

文:兵庫慎司
写真:村井香


2020年12月26日(土)
『銀杏BOYZ 年末のスマホライブ 2020』セットリスト
01.DO YOU LIKE ME
02.SKOOL PILL
03.大人全滅
04.アーメン・ザーメン・メリーチェイン
05.骨
06.エンジェルベイビー
07.恋は永遠
08.いちごの唄 long long cake mix
09.生きたい
10.GOD SAVE THE わーるど
11.アレックス
<アンコール>
12. 東京
13. 夢で逢えたら

『銀杏BOYZ 年末のスマホライブ 2020』のアーカイブ映像は1月11日(月・祝)23:59までPIA LIVE STREAMにて配信中。
視聴チケットは1月11日21:00まで購入可能です。

視聴チケット購入・公演詳細
https://livewire.jp/p/gingnangboyz201226

 

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