銀杏BOYZ ニューアルバム ねえみんな大好きだよ

2020年10月21日発売

収録曲

  • 01.DO YOU LIKE ME
  • 02.SKOOL PILL
  • 03.大人全滅
  • 04.アーメン・ザーメン・メリーチェイン
  • 05.
  • 06.エンジェルベイビー
  • 07.恋は永遠 feat.YUKI
  • 08.いちごの唄 long long cake mix
  • 09.生きたい
  • 10.GOD SAVE THE わーるど
  • 11.アレックス
  • 発売日:

    2020年10月21日(水)

  • 形 態:

    CD

  • 品 番:

    SKOOL-049

  • 価 格:

    3,300円+税

  • 仕 様:

    三方背スリーブケース仕様(初回盤のみ)
    36ページブックレット
    ※初回盤出荷終了次第、通常盤に切り替わります。

  • レーベル:

    初恋妄℃学園

ミュージックビデオ

  • 銀杏BOYZ - DO YOU LIKE ME

グッズ

  • ねえみんな大好きだよ フォトロンT (ホワイト×ブラック)

    ねえみんな大好きだよ フォトロンT
    (ホワイト×ブラック)

    5,280円(税込)

  • ねえみんな大好きだよ フォトロンT (ホワイト×ネイビー)

    ねえみんな大好きだよ フォトロンT
    (ホワイト×ネイビー)

    5,280円(税込)

  • ねえみんな大好きだよ フォトロンT (ブラック)

    ねえみんな大好きだよ フォトロンT
    (ブラック)

    5,280円(税込)

  • ねえみんな大好きだよ フォトロンT (ライトピンク)

    ねえみんな大好きだよ フォトロンT
    (ライトピンク)

    5,280円(税込)

  • ねえみんな大好きだよ GNBZロンT (ホワイト×ブラック)

    ねえみんな大好きだよ GNBZロンT
    (ホワイト×ブラック)

    5,280円(税込)

  • ねえみんな大好きだよ GNBZロンT (ホワイト×ネイビー)

    ねえみんな大好きだよ GNBZロンT
    (ホワイト×ネイビー)

    5,280円(税込)

  • ねえみんな大好きだよ GNBZロンT (ブラック)

    ねえみんな大好きだよ GNBZロンT
    (ブラック)

    5,280円(税込)

  • ねえみんな大好きだよ GNBZロンT (ライトピンク)

    ねえみんな大好きだよ GNBZロンT
    (ライトピンク)

    5,280円(税込)

  • 「ねえみんな大好きだよ」ポスターセット

    「ねえみんな大好きだよ」
    ポスターセット

    2,200円(税込)

Loading...
峯田和伸
による
覚書

/

覚書

「はじめに」

 

音楽で生きていきたいと強く願った18才の時。僕はギターで曲を作り始め、1997年に生まれて初めて自分のバンドを組みました。あれ以来、僕は一度もバンドをやめる事をできていません。2014年にはメンバー全員が脱退して僕ひとりだけが残ってしまいました。けれどそれでも僕は音楽をやめる事ができずにいました。結婚した相手とズルズルと付き合ったまま、もはや好きなのか嫌いなのかもわからず、ただ離婚するのが面倒くさいから続いているだけの関係に近いかもしれません。

曲が生まれた時は何物にも代えがたい喜びがあり、全く曲が出来ない時は罪人のように狼狽えてしまいます。このような二つの状態の狭間で漫然と生活をし、時にはお芝居の仕事をし、女性と恋愛をし、前作のアルバム「光のなかに立っていてね」から6年が経過しました。このたび完成した銀杏BOYZのアルバム「ねえみんな大好きだよ」は、たくさんの人達の力添えをえて、新型ウイルスの流行によるレコーディング終盤での中断を余儀なくされながらも、ようやく作り上げる事ができた作品になります。

/

覚書

「出発点」

 

誰にとってもそうでしょうが、2011年に起きた東日本大震災は精神的にも影響が大きかったと言えます。ものをつくるという事。伝えるという事。ひとつの音を鳴らすという、たったそれだけの事。自分がやらなければならない働きを改めてもう一度みつめ直すきっかけになったように感じます。

日々生活を送っていると大小様々な情報が入ってきます。下世話なものから政治、芸能。それらの多くはSNSなどによって瞬く間に拡散され、しばらく狂熱が続くとすぐに次の話題に取って代わられ、まるで何事も無かったかのように忘れ去られていきます。2012年6月。ひとつのニュースに引っかかりを覚えました。元オウム真理教信者である菊地直子容疑者が17年間の潜伏生活の末に逮捕されたというものでした。彼女が指名手配犯だと知りながら匿い、神奈川県相模原市にあるあばら家同然の住居で一緒に暮らしていた一般男性も、後に自ら出頭して逮捕されました。報道陣カメラのフラッシュを浴びながら移送されるデニム姿の菊地直子さんの下向きの表情がとても印象に残っています。後に彼女は無罪判決を受けて東京拘置所から釈放されたのでした。

僕の事も書かなくてはなりません。ちょうどこの頃、銀杏メンバーであるチン中村君がアルバムレコーディングの最中に脱退する事が決まり、バンドは揺れていました。僕はひどく動揺し、ひとつの終わりというものを感じざるをえませんでした。そこから砂の城が崩れるようにメンバーもスタッフも辞めていきました。もう取り返しがつかないのだ。喪失感を持って生きていく覚悟をしました。菊地直子さんもまた、喪失を携えて17年間を生き延びていたに違いありません。あの二人は何度も絶望し、おびえながらも、二人にしか解りえない愛の巣中でひっそりと息をしていたに違いありません。

「浮雲」(成瀬巳喜男監督/55年作)の富岡兼吾と幸田ゆき子。「夜の人々」(ニコラス・レイ監督/48年作)のボウイとキーチ。「愛のコリーダ」(大島渚監督/76年作)の吉蔵と定。「ポンヌフの恋人」(レオス・カラックス監督/91年作)におけるアレックスとミシェル。「HANA-BI」(北野武監督/97年作)の西佳敬と美幸。

男と女が逃げる先に待つ破滅の地点。最果て。僕が行けなかった場所。あの人が待っていたかもしれない。僕の新しい曲たちはその景色の想像するところに生まれ始めたのかもしれません。

/

覚書

「解説のようなもの」

01. DO YOU LIKE ME

アルバム冒頭を飾る曲は「肉体的な音楽」でいこうと以前から決めていました。僕の青年期を真っ黒に彩ってくれた「肉体的な音楽/パンクロック」に対する恩返しでもあり、また新しい気持ちで歌っていくという決意表明でもありました。体力、瞬発力を要求される演奏に馴れていないサポートメンバー四人と汗だくになりながら練習を重ねました。聴衆との物理的な濃厚接触が多分にみられる銀杏BOYZライブにおいて、現時点で最も演奏不可能な曲であり、また逆説的にみれば2020年作品の1曲目に配されるにはこの曲の誕生は必然でした。今、僕が最も欲していて、最も遠い場所で鳴るべき音楽はハードコアパンクです。

/

覚書

「解説のようなもの」

02. SKOOL PILL

冒頭に続いて、スタジオで同時に生まれた曲です。ギターのチューニングを合わせないままミニアンプで鳴らして録音しています。高校三年生の時、教室でもイヤホンをずっとつけたままロックばかり聴いていた僕に、ある日突然、同級生のパンクス森浩二君が「かっちゃん、俺のバンドさボーカルいねえがら歌ってくれねえが」と声をかけてきたのでした。人前で歌った事などなかった僕に、どうしてか白羽の矢が立ったのです。そのまま僕らは高校生パンクバンドとして1回だけライブをやりました。1995年。大江町ふれあい会館。雪が降る冬の寒い日でした。興奮さめやらず、帰り道にメンバー四人全員で酔っぱらって田んぼにダイブしました。25年たった今でも忘れられない出来事です。パンクは内気でこもりがちだった僕を初めてこの世界に解放してくれたのだと思います。歌詞には森君が出てきます。

/

覚書

「解説のようなもの」

03. 大人全滅

1999年発売のGOING STEADYファーストアルバム「BOYS & GIRLS」に収録されていた「DON'T TRUST OVER THIRTY」の、銀杏BOYZによるセルフカバーです。

インターネット、SNSは大人をみんな子供にし、子供を大人にしてしまうものだと思います。僕もまた子供になってしまうのです。漂白されてしまうのです。僕に残された手段はロックの身体性にしがみつき、音程の擦れを肯定し、コードの衝突を起こさせて存在証明する事です。山下洋輔トリオのように。「SISTER」期のソニック・ユースのように。

/

覚書

「解説のようなもの」

04. アーメン・ザーメン・メリーチェイン

2019年。渋谷ラママの楽屋で、ガンで亡くなる前のイノマーさんに寄せ書きをお願いされて、ペンを渡された僕は咄嗟に「死なないで。生きるまで」と書きました。夜遅くに家に帰ると僕はその言葉の意味がまたさらにわからなくなり、ただその言葉のうわばみだけを反芻しました。ガンと闘い続ける最愛の友人に向けて、自分に向けて、心経のように唱えました。

同年9月。ロンドンのハックニー・エンパイア劇場でのライブ前夜、緊張と興奮でなかなか寝つけなかった僕は夜中1時頃にアコースティックギターとノートを持ってホテルを出て、道を挟んですぐ隣りにあった大きな公園墓地に入っていきます。ロンドンでのライブでどうしても出来たばかりの新曲を歌いたくて、ベンチに腰かけて作曲しました。あの言葉をどうしても成仏させたかったのかもしれません。気づくと、一匹の野狐が遠くからこちらを見ていました。そういった経緯でこの曲は生まれました。

/

覚書

「解説のようなもの」

05. 骨

2017年発売のシングル「骨」を新しく録音し直しました。もともとは安藤裕子さんから楽曲提供の依頼を受けてつくった曲です。打ち合わせの日に、安藤さんはまだ小さい娘さんを一緒に連れてきていて、その子が僕を柱の陰から覗いて笑っては、また隠れるみたいな事をやっていて、それがとても可愛らしく、そこで僕は「我が子をおもう母」目線からの曲をつくったらどうだろうと閃いたのでした。なので歌詞の一人称は「わたし」です。演奏のアレンジも柔らかめです。紛れもなくザ・ビートルズ、1910フルーツガム・カンパニーやフィル・スペクター・サウンドを意識していたと思います。大袈裟に言えばですが。藤原寛くんの弾くベースは古いギターアンプに繋いで録音しています。

/

覚書

「解説のようなもの」

06. エンジェルベイビー

2017年発売のシングル「エンジェルベイビー」の新しい録音です。BPMはより速くなり、「Sunny Sundae Smile」期のマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、タルラー・ゴッシュ、ザ・プレイメイツのような焦燥感のある音の肌触りを目指しましたが結局はいつもの感じになりました。UCARY VALENTINEさんによるエレクトロノイズと二人のギタリスト、山本幹宗くんと加藤綾太くんによるエフェクトノイズの重なりがとても気に入っています。

ジョン・レノンの曲に「ANGEL BABY」という曲がありますが、作曲当時、岡田惠和さん脚本によるNHK連続テレビ小説「ひよっこ」にてビートルズ好きのおじさん役として撮影にのぞんでいた僕は、役に近づくために毎朝ビートルズのアルバムを聴く生活を送っており、この頃はよっぽどビートルズづいていたのだと思います。昔、WOWOWで観たオーストラリア映画「エンジェル・ベイビー」(マイケル・ライマー監督/95年作)も忘れられません。「いっしょに飛ぼうか」「あなたとなら、何処へでも」。

/

覚書

「解説のようなもの」

07. 恋は永遠 feat.YUKI

いつも、たいがい、そうなるってもう決まっています。例えば僕が恋人とデートでプラネタリウムを見に行くとします。池袋サンシャインでも東京スカイツリーでもいいです。僕は下調べしておこうと、デートの三日前にひとりでそのプラネタリウムを体験しに行きます。とてもいいプログラムで僕は満足して帰ります。デート当日、彼女とプラネタリウムに行くと、僕が見たプログラムではなくなっていて新しい題目に変わっています。観賞後、彼女はとてもよかったと言うけど、僕は三日前に見た方がもっと断然すばらしかった事を、告げようにも告げられません。でも隣りにいる彼女は喜んでいるので、少し悔しいけど、まあいっかあ、と思います。だいたいそうなるって決まっている事を歌にしました。

YUKIさんには2005年発売のアルバム「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」収録の「駆け抜けて性春」でゲストボーカルとして参加して頂きましたが、今回15年ぶりに一緒に歌う事ができました。奇跡は起こりません。YUKIさん自体が奇跡だからです。たいがい、もう決まっています。

/

覚書

「解説のようなもの」

08. いちごの唄 long long cake mix

2018年に朝日新聞出版から刊行された小説「いちごの唄」(岡田惠和/峯田和伸)が翌年に菅原伸太郎監督により映画化される事になり、その主題歌になった曲です。主人公の青年が街を走り抜ける場面を思い浮かべ、彼の背中を押してあげれるような曲になればいいなと願い、作曲しました。ザ・クラッシュ、カステラ、ザ・ゲット・アップ・キッズからの影響がありそうです。この曲はレコーディングスタジオでその日初めてメンバーに披露し、その場でコード進行とメロディを教えて、アレンジもそこで議論しながら、その日のうちに録音したのでした。2回演奏したうちの2テイク目が採用されました。

/

覚書

「解説のようなもの」

09. 生きたい

今回のアルバム収録曲のなかで、いちばん最初に出来た曲が「生きたい」でした。2014年の舞台「母に欲す」(作・演出 三浦大輔/PARCO劇場)に出演した後、吐き出されるままに作曲し、シングルとして2016年に発売され、このたびアルバム版「生きたい」として新しくレコーディングしました。ピアノはDr.kyOnさんに弾いてほしいと僕は強く希望し、Dr.kyOnさんは二つ返事で受けてくれました。二人だけでリハーサルスタジオで演奏していると、ここはこうしよう、と言葉で説明しなくても、音楽が鳴っている中でお互いの呼吸だけで会話ができるというか、わかりあえてしまう感覚があり、すると音楽が手元から離れて勝手に踊りだしていくのを見ました。バンドマン冥利に尽きる体験でした。バンド演奏の録音は1回のみ。もうこれ以上できませんでした。演奏が終わって、休憩スペースに座りこむドラムの岡山健二くんの赤い顔を見た時、涙が出そうになりました。

2005年「人間」。2007年「光」。そして今回の「生きたい」を産み落とせた事で、「恥と傷の三部作」が結実し、僕の中で何かが終わり、新しい何かが始まったように感じます。残念ながら身も心も軽くなって晴れ晴れ、とはいきませんが、言い知れぬ喪失感は消えてくれないですが、炙り出されたこの姿のままに前を向いて歩くしかないと言うような、にぶい朝のひかりのようなものを予感しています。

/

覚書

「解説のようなもの」

10. GOD SAVE THE わーるど

ライブで数回披露した事はありましたが今回このアルバムに収録するにあたって、おもいきって全編打ち込みのアレンジに改変しようと思い立ち、UCARY VALENTINEさんにトラック制作を依頼しました。ちょうどコロナウイルスの感染が拡大してきた時期にこの曲の制作にとりかかっており、しばらくは彼女と会うことができないまま、メールでのやりとりだけで作業を進めるしかありませんでした。非常事態宣言が明けてからようやく顔を合わせてレコーディングする事ができ、曲は完成に向かいました。歌詞の背景にあるのは、ある日僕のところに送られてきた、地方に住む銀杏ファンの女の子からのお便りです。川沿いでの恋人との逢瀬。誰にも知られない秘密の日常。それにツイン・ピークスの新シリーズ。大林宣彦監督の死について。「JOKER」でのホアキン・フェニックスの神秘性。

/

覚書

「解説のようなもの」

11. アレックス

岡山健二くんとのツインボーカル曲です。歌入れの時、自粛期間明けだったのですが思うように僕の声は出ず、歌い終わるまでとても時間がかかりました。アウトロでの加藤綾太くんのソロギターがとても好きです。結構長いのですが二人でアイデアを出しあってギターのメロディを考えました。

解説にならないものを書きます。例えば僕が、この世界に好きなひとをみつけたとします。そのひとは誰かと話して笑っていたり、廊下でジュースを飲んでいたり、ベンチにひとりで座っていたり。それを見られるだけでどんどん僕の気持ちは高揚し、やっぱり僕はあのひとの事が好きなんだと確信していきます。あのひとは僕の事を知りません。知っているかもしれませんが、彼女の世界の中に僕はただ景色として映っているだけです。僕はそんな彼女の事が好きなのです。もし万が一、彼女が僕の事を好きになって、彼女の世界のなかに僕が存在してしまったら。彼女が僕を所有してしまったら。どうなってしまうんでしょう。あのひとがあのひとのままでいてくれたら、ずっと好きでいられるのにって思います。僕にとって忘れられない音楽は、ロックは、あのひとがあのひとのままで僕と目が合った最初で最後の一瞬のようです。

/

覚書

「おわりに」

 

久しぶりのアルバムリリースという事もあり、発売にあわせて全国をくまなく巡るライブツアーも予定していました。ですが今のこの時勢により横浜アリーナ公演は中止になり、その他の延期公演もいつ実現できるか、どのような形で演奏できるか、まだ運営スタッフとの協議の最中にいます。それは銀杏BOYZに限った事ではなく、どの舞台関係者にも等しく与えられた大きな課題です。

まずは音源を届ける事。この音楽たちが、聴いてくれるひとの精神の避難場所になってくれる事を、強く、強く望みます。同時に僕が肝に銘じなければならないのは、その場所がたとえ安全であったとしてももしかしたら自分の意図しないところで、他の誰かにとっては悲しい思いをする場所なのかもしれない、その事です。

2020年8月20日
銀杏BOYZ 峯田和伸